もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
10、エピローグ
【side志貴】
「しかし葉菜先生を拾得物に例えるとは、犬飼もなかなか……」
全てを終えて署から交番に戻り報告書の作成をしていると、隣から堪えきれない笑いを含んだ声が降ってきた。
オレはパソコンから顔を上げ、隣で頬杖を突きながらこちらを眺める先輩に苦い表情を向ける。
「……それは反省してます。でも、言ってやらなきゃ腹の虫が収まらなかったんで」
オレは、あの男に相当腹を立てていた。
だから、葉菜のことを自分勝手に傷つけてあんなに泣かせておきながら、まだ己に未練を残していると思っていた勘違い野郎に突きつけてやりたかった。
葉菜はもう、お前なんかに一ミクロンの未練も残してはいない、と。
だが、葉菜を拾得物に例えてしまったことは猛省している。
「いつもポーカーフェイスで常に一定の温度を保っている犬飼が沸騰したところ、初めて見たなぁ」
……今日は鶴崎さんのフォローのおかげでいろいろと助かったが、オレを揶揄うことに一種の娯楽を見出しているこの人にみすみす揶揄うネタを提供してしまったと思えば頭が痛い。
「あと、淡々と被疑者の逃げ道を塞いで追い詰めていくところも面白かったなぁ。なかなかギリギリのラインで攻めたよね」
今回の件は、大ごとにするのは本意ではないからと、もう金輪際目の前に現れず、連絡先も消去して二度とこの地にも降り立たず一生涯関わらないでいてくれたらそれでいいと言う葉菜の意志を汲んで、〝文書警告〟を出すに止まった。
この警告に従わなければ禁止命令や処罰が下るのだが、オレはアイツが本当に二度と、金輪際、一生涯葉菜に近づく気が起きないように(諸々の詳細は伏せるが)、あらゆる角度から徹底的に追い詰めてやったから、もうバカなことを起こす気にはならないだろう。
「彼女のためならなんだってできますよ、オレは」
それだけ大切で、守りたい人なのだ、オレにとって彼女は。
「かぁっこいいねぇ、志貴くんは」
「……鶴崎さん。雑談する余裕があるなら、報告書代わって下さい」
「え〜、それはむりかなぁ。オレ今犬飼を揶揄うのに忙しいからさ」
今度は頬に両手を当ててニマニマと茶化してくる先輩に作成途中のパソコンを差し出せば、悪びれもせずに満面の笑みを浮かべて小首を傾げ、べ、と舌を出されてしまった。
……今、堂々と揶揄うって言ったな、この人。
しかしその顔は全くもって可愛くないし、頼むから仕事をしてくれ……。