敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
車窓の方に視線を投げた京本さんの横顔は、あまりにも痛々しかった。
家政婦として美来をよく知っている彼女だからこそ、藤間が自然とあきらめるのを待っていたのだろう。しかし、そううまくはいかなかった。
パーティーで帰国日について藤間に知らせた俺もうかつだった。彼が美来に近づく隙などもうないと主張したつもりが、逆効果だったようだ。
「彼は、どうしてそこまで美来との結婚に固執するんです? 紫陽花楼の経営のため?」
「それは、たぶん私が……」
視線をこちらに戻した京本さんが、手のひらで自分のお腹に触れる。
その仕草の意味を考えるより先に、タクシーが紫陽花楼の前に到着した。
美来が危険な状況かもしれない。事情を聞くのは後だ。
「彼が美来を連れて行く場所に心当たりは?」
タクシーを降り、紫陽花楼の建物に近づきながら、後をついてくる彼女を振り返る。
「あります。正面玄関より、こちらを通った方が早いです」
なぜか紫陽花楼の構造に詳しい京本さんに先導され、建物の裏手から中へ入った。
邪魔なスーツケースはその場に置き、奥歯をぎりっと噛みしめ、軋んだ音を立てる古い旅館の廊下を駆ける。
待っていてくれ、美来。今、助けるから――。