敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
「叶多くん……」
カタカタと震える手で、スーツの背にしがみつく。そのままギュッと私を抱きしめた彼のネクタイにはお揃いの象嵌細工のピンが輝いていて、じわりと目が潤んだ。
「なにもされてないか?」
「うん、大丈夫」
「少し待ってくれ。藤間と話をつける」
ゆっくり体を離した彼は、私をその場に残して清十郎さんの方へ足を進める。
入れ替わるようにして私のそばにやってきたのは、瞳を濡らした泉美さんだった。
「美来様……申し訳ございません。私」
「泉美さん、教えて。いったいあなたと清十郎さんの関係は――」
彼女に尋ねようとした途中で、ダン!と大きな音が鳴る。驚いて振り向くと、叶多くんが清十郎さんを部屋の隅に追い詰め、壁に手をついていた。
清十郎さんは暗い目をして、皮肉げに口の端を上げている。
「……ずいぶんとお早いお帰りで」
「予定通りの便だが、彼女に〝急いで紫陽花楼に向かってほしい〟と頼まれたんだ」
怒りを堪えたように声を震わせる叶多くんが、ちらっと泉美さんを一瞥する。
清十郎さんはため息をつき、嘲けるように鼻を鳴らした。