敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

「そうしたいのは山々だが、俺はどんなに腹の立った相手でも殴らないと決めている。暴力ではなにも解決しない」

 争いを好まない優しい性格は、昔から変わっていない。だからこそ彼は外交官になったのだ。

 この世界から少しでも、暴力や武力により悲しい思いをする人々が減りますようにと。

「ご高説どうも。子どもの頃から親に殴られ続け、言うことを聞かなきゃこの部屋に閉じ込められていた俺には、まったく響きませんが」

 清十郎さんの幼少期の話は初めて聞いたので、離れた場所で聞いていた私も、「えっ」と声をあげてしまった。

 それは虐待ではないの? 彼の両親はごく普通の人たちだと思っていたのに……。

「その経験があるならなおさら、理不尽に傷つけられることの恐怖はわかっているだろう。憂さ晴らしのように他人を傷つけるより、もっと別の方法で――」
「わかっている!」

 初めて、清十郎さんが正面から叶多くんに言い返した。

 居ずまいを正し、正面から叶多くんを見つめ返した彼は、自分を落ち着かせるように大きく息を吐く。

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