敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

「あの人たちを見返すため、もっと多くの宿泊客が紫陽花楼を選んでくれるようにと……俺は様々な提案をした。たとえば高齢者や体の不自由な宿泊客のための手すりやスロープを設置する、何台か残っている和式トイレをすべて洋式に変える、キッズルームをつくる。まずは一室からでも、風呂付の特別室を作って、高級感を演出する。あるいは食事の質をもっと向上させるために外部から料理人を採用する。……そういったことを、数えきれないくらいに」

 清十郎さんは神経質な様子で頭をガシガシと掻き、最後に大きく前髪をかき上げた。

「しかし、父はまともに検討しないどころか『そんなことよりお前は八束の娘と早く結婚して、俺たちに親孝行しろ』と、馬鹿のひとつ覚えみたいにそれしか言わない。だから……俺はいつの間にか、夢見がちな美来に苛立つようになった」
「清十郎さん……」

 紫陽花楼のために政略結婚を強行したかったのは、彼と言うよりご両親の方だったとは知らなかった。

 私はてっきり、清十郎さんが八束グループを利用したいのだとばかり思っていたけれど、彼はむしろ他のやり方で旅館の魅力を引き出し、お客さんの数を増やそうとしていたのだ。

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