敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

 私、八束美来(やつかみくる)は今月下旬に二十五歳の誕生日を迎える。

 その日を境に、許嫁との結婚に向けて話を進めることが決まっていた。

 私の父親は、大手ホテル企業『八束グループ』の代表取締役社長。そして許嫁というのは、浅草の由緒ある老舗旅館『紫陽花楼(あじさいろう)』の若旦那だ。

 父の目的は、昔ながらの伝統的な旅館である紫陽花楼を八束グループの傘下に入れ、新たな客層を獲得すること。

 そして紫陽花楼サイドは、八束の後ろ盾を得て経営を安定させたいと考えている。

 両家、というより両企業同士の利益を図るための、完全なる政略結婚。加えて紫陽花楼の若旦那というのが、どうにもアクの強い……いや、ハッキリ言ってかなり性格の悪い男であるため、父の言いなりになって彼と結婚するつもりなんて毛頭なかった。

 彼と初めて顔を合わせたのは成人してからで、食事を何度か共にしただけ。

 それでも、お互いの両親の前ではいい顔をし、私とふたりになると途端に冷酷になる彼のことを一切信頼できない。

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