敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
父には『くだらん夢は早く捨てろ』と言われているものの、いつも黙って心の中で舌を出している。結婚に関しても、このまま流されるつもりはない。
私の仕事はどこへいたってできるし、このまま八束の家を出てひとりで気ままに暮らすのもいいかもしれない。
塞いでいた気分が少し和らいだところで、手に持ったスマホが短く震えた。
画面に表示された一件のメッセージに視線を落とす。
【どうせまたスペインにいるんだろう。数日中に藤間くんに迎えに行かせるから、彼と一緒に大人しく帰ってきなさい】
差出人は父。命令口調にムッとすると同時に、〝藤間〟の名に軽い嫌悪感を覚える。
彼、藤間清十郎こそ、政略結婚の相手。傲慢で鼻持ちならない紫陽花楼の若旦那だ。
【嫌です。帰りません】
短い文章を打って送信すると、スマホをバッグにしまう。
スペインにいるのは図星だが、私がどの街にいるかまでは、父も知る術がない。無視していればあきらめるだろう。
極力楽観的に考えることにして、意気揚々と足を進める。
しばらくして、前から来た若い男性がにこやかに私を呼び止めた。