敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
誰にも邪魔されない場所で

 七月二十二日、土曜日。母に連れられて行った美容室で着物の着付けとヘアメイクを済ませた後、タクシーで結納会場である八束グループのホテルへ向かった。

 都内にいくつか展開しているホテルの中でも、特に結婚式や結納などのセレモニーに特化している、厳かでラグジュアリーなホテルだ。

 控室で待ち構えていた父は、ようやく肩の荷が下りたとでも言いたげな顔をしている。

「さすがに観念したようだな」
「そうみたい。この子、今日はずっと大人しいのよ」

 母はそう言ってクスクス笑うけれど、私がひと言も発する気になれないのは、決して観念したからというわけではない。

 どうしたら今日の結納をぶち壊しにできるかと、朝からずっと考えていたからだ。

 いくら『行きたくない』と駄々をこねたところで、両親の考えを変えるのは難しい。

 だったらいっそ、清十郎さんと彼のご両親の前で大きな失態を犯せば、あちらから結婚を断ってくれるのではないか。

 そう思いついたのはいいものの、その〝失態〟の内容が定まらないまま、とうとう結納会場まで来てしまった。

< 95 / 220 >

この作品をシェア

pagetop