敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

「藤間さん方が到着する前に会場へ向かおう。人がよすぎるあのせがれも、お前の晴れ姿を見たら安心するだろう」
「そうね。清十郎さん、きっと美来に惚れ直すわ」

 人がよすぎるせがれ? 惚れ直す?

 相変わらず両親はなにもわかっていない。紫陽花楼を八束グループの傘下に入れたら、そのうち清十郎さんの腹黒い策略で内側から食い尽くされてしまうんじゃないかしら……。

 声に出さずに思いながら、ホテルの長い廊下を進む。

 途中でホテルの内装が近代的なものから和テイストに切り替わり、襖で仕切られた一室の前に【藤間家 八束家 御結納式会場】と書かれた立札が立っていた。

 中に入り、結納品の飾り付け、結納金の準備などを私たち新婦の家族で行う。それが済んだ頃、ちょうど到着した清十郎さんとご両親を迎えた。

 藤の花の家紋が入った羽織袴を着用した清十郎さんはちらりと私を一瞥すると、口もとに一瞬だけ酷薄な笑みを浮かべて室内へ足を進めた。

 私が好き好んでこの場所にいるわけではないことを、よくわかっているのだろう。その上で強引に結納を交わし、逃げ道を完全に塞ごうとしているのだ。

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