敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

 私はいったい、どうしたら……。

 手だてがまったく思いつかないまま、結納の儀が始まった。

「このたびは美来様と、私どもの清十郎との縁談を快くご承諾くださいまして、ありがとうございます。本日はお日柄もよろしいので、婚約のしるしとして結納品を持参いたしました。幾久しくお納めください」

 紫陽花楼の支配人である清十郎さんのお父様が、口上を述べた。

 その声音には少しの緊張と喜びとが滲んでおり、息子を思う親心が垣間見える。

 この結納をぶち壊しにしたら、なんの恨みもない清十郎さんのお父様やお母様まで傷つけてしまう。今さらのようにそんなことに気づき、抗いたい気持ちが折れそうになる。

 葛藤している間も次々両家の間で結納品、そして返礼の品がやり取りされ、儀式は婚約記念品のお披露目へと移る。

 清十郎さんが私に優しい眼差しを向け、初めて口を開いた。

「婚約記念品として美来さんに婚約指輪をお贈りしますので、お披露目させてください。美来さん、こちらへ」

 清十郎さんが私を呼んでいるけれど、凍り付いたように体が動かない。

 指輪なんていつの間に用意したのだろう。

 それを嵌めてしまったら、私はもう……。

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