僕の月

第2話

 新学期、僕は高校二年生になった。張り出されたクラス表を確認すると、僕は二組だった。そこには一番上に、相沢沙夏の名前もあった。クラス替えなんていつもは気にしないくせにこの時は彼女がいて嬉しかった。
「おはよう。」
自分から挨拶するつもりだったから、先を越されてちょっとだけ悔しかった。
「おはよう。」
「今年も同じクラスだ。よろしくね!」
「ああ。よろしく。」
「なになに?お二人さん、知り合いなの?」
確かこの子は沙夏といつも一緒にいる子だ。あの日喧嘩したと言っていたのも確かこの子だ。さすが沙夏の友達なだけあって明るい。
「そうそう、去年ちょっと運命的な出会いしたんだよねー。奈波よりも深ーい仲だもんね。」
そういう誤解されるような言い方するな。
「ええ!もしかして付き合ってるとか?まじか!なんか意外な二人なんですけどー。おーい、琉希!沙夏の彼氏だってー!」
「は?」
遠くにいる男子生徒に大声でそういったため、クラスが一気に騒がしくなった。
「へっへっへ。」
当の本人は否定するどころかニコニコと楽しそうにしている。絶対にめんどくさいことになる。僕は逃げようと席を立った。だがしかし、襟をガシッと誰かに掴まれたことで阻止された。
「おまえ、沙夏の彼氏ってまじ?」
「いや、違う。こいつが勝手に言っただけだ。」
「そうだよな。こんな眼鏡でちょっと背が高いだけのやつが沙夏の彼氏になんてなれるわけないんだよ。」
まあ、眼鏡は否定しないけども。明らかに相沢さんのことが好きなんだろうと思われる男が、僕に敵意むき出しで仁王立ちしていた。ただ、
「ちいさいな。」
やってしまった。声に出ていた。
「ああ?これでも百七十はあるんだよ。てめえが無駄にでかいんだ。」
「嘘だー、だって前百六十七センチって智也から聞いたよー。」
「三センチ盛ってるじゃん。うけるー。」
「うるせえよ奈波、余計なこと言うんじゃねえ。」
女子二人にいじられるのはさすがにかわいそうだが、ここで僕が何か言ったところで火に油を注ぐだけだということは分かっていた。
「それより、彼氏じゃなかったら何なんだお前。沙夏と気が合うタイプには見えねえけど?」
確かにこいつは明るそうだし、友達も多いのだろう。彼女と一緒にいてなんの違和感もない。だが僕は、彼女とはどう見ても不釣り合いだ。いや、だから何だ。相沢さんとは友達だし、冬樹と同じように大切に思っているだけだ。別にこいつをライバル視する必要はない。
「べつに、友達だ。」
「ふーん。友達、な。」
いちいち突っかかってくる。こいつとは友達になれないだろう。そう思った。性格もだいぶ違うし、こいつは僕を敵視してる。
「琉希、そうっちをライバル視しすぎー。」
そうっち、だと。やめてくれ恥ずかしい。
「奈波がそう呼ぶんだったら私も宗一郎って呼ぼ。」
「いや、あんたも何張り合ってんの。」
「だって、私が一番に宗一郎と仲良くなったのに二人のほうが仲良くなりそうでなんかむかつくんだもん。」
「は、俺は別に仲良くなりたいとか思ってねえし。」
「私は仲良くなりたいなー。ね、そうっち。ってか、普通にかっこいいよね、そうっち。今まで彼女とかいなかったの?」
「ちょっと奈波、まさかあんた、宗一郎のこと気になってるとかじゃないよね。」
「それは誰かさんでしょー。私は好きな人いるもん。」
ここでけんかはやめてほしい。というか、一人にしてくれ。三人がもめてる隙を伺って、僕は屋上に逃げた。一息ついて寝そべり、空を見上げた。春のポカポカした陽気で、僕は
いつの間にかうとうとしていた。
「宗一郎!」
「なんだよ。」
「びっくりした?」
そう言って僕を上からのぞき込む顔が、一瞬、冬樹に見えた。中学の時、冬樹との待ち合わせ場所の河川敷に僕が寝そべっていた時、冬樹が上からのぞき込んできたことがあった。僕は思わず彼女の頬に手を伸ばしてしまった。
「宗一郎?」
「あ、すまない。少し知り合いに見えたもので。」
「ええ、それって好きな人とか?さっき、すごい優しい顔してたから。ちょっとどきっとしちゃった。」
「相沢さんだって、僕にとっては大切な人だ。」
「それってどういう意味?」
「そのままの意味だ。大切な友達だろ。」
そう言うと不服そうに頬を膨らませている。その顔が少し可愛くて、思わず笑ってしまった。
「何笑ってんのよ。」
「面白い顔だったから。」
「何それひどーい。そんなんじゃ女の子にもてないよ。」
僕はやっぱり何か気に障ることを言ったのだろうか。少し拗ねている気がする。こういう時、どうすればいいのか僕には分からない。とりあえず褒めておけばいいのだろうか。
「さっきの顔、本当は少し可愛かった。だから笑った。」
「な、にそれ。別に今更そんなお世辞言ったって遅いもん。」
そう言ってそっぽを向いた彼女の耳は赤くなっていた。機嫌が直ったみたいだ。僕はまた、眠くなって、少し肌寒くなるまでそこで居眠りして帰った。
 
それからはなぜか四人で行動するようになった。山口琉希。奥野奈波。二人は小学校からの幼馴染らしい。相沢さんとは中学からの付き合いだと言っていた。僕は南野中学で、三人は桜庭第一中学。そういえば冬樹も中一の途中まで桜庭にいたと言っていた。学年が違うから三人は知らないだろう。
「そうっちさ、いつも弁当持ってくるよね。それ、お母さんの手作り?」
「いや、僕が作っている。」
「ええ!そうなの?いい旦那さんになりそー。てか、今度うちらの分も作ってよ。」
「俺は別にいらねえけど、まあお前がどうしても作りたいなら食う。」
「宗一郎、大変だったら断ってもいいんだからね。」
「いや、全然大変じゃない。僕も好きでやってる。それなら明日の林間学校の弁当、僕が作ってこようか。」
「え!良いの?やったねー!」
「宗一郎の手作りか。めっちゃ食べたい。」
明日は林間学校がある。四限にレクリエーションの班決めがあり四人グループを作らなければならなかった。僕はあまりものの班に入ろうといつも通り一人、ぼーっとしていたら、
「宗一郎、早く来いよ。名前、書け。こっち座れ。」
めちゃくちゃ意外な奴に声をかけられて驚いた。
「山口。」
「だーから、山口じゃなくて、琉希でいいって言っただろ。前に。いいから早く。」
「ここ座ってー!そうっち早くー。」
こんなこと初めてだったから戸惑ったが、琉希に何ぼーっとしてんだと背中をバシッと叩かれて、そんな気持ちはどこかに吹き飛んだ。
 一年の頃、宿泊学習でちょっとしたグループ活動をすることになった。そのためのグループ分けで一人あぶれて、人数の少なかった班に強制的に入れられた自分を思い出す。その時の自分にちょっとだけ笑って見せた。
「宗一郎、何笑ってんの。」
「何にやにやしてんだよ。」
「ていうか、そうっちって笑うんだ。」
「笑うよ。」
「笑うだろ。」
案外、琉希は僕のことを見ていてくれたのかもしれない。相沢さんと同じように言ってくれたことが嬉しかった。
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