戻ってきたんだ…(短編)


キラキラと光の粒を残して、彼は消えてしまった。

まだ、この手にも、唇にも彼のあたたかさが残っている。

ここにいたんだって、証が。


「翔…………」


最後に言いたいことだけ言って、消えちゃうなんて。


「……ずるいよ」


ずっと堪えていたはずの涙が、一筋流れる。

今日で、泣くのは最後にしよう。

これからは笑って、前を向くんだって

翔と約束したから。


それに、

なぜか、彼にまた会えるような気がした。

そんな根拠どこにもないけれど。

確かな確信が、私の中にはあった。


私は彼が消えていった天井を見つめると

最後に残された言葉を思い出す。


『幸せになれよ』


私はごしごしと目元を拭うと、力強く頷いた。


「私、あなたの分まで生きて、幸せになるからね」


そう言って満面の笑みを浮かべると、

部屋の中なのに風が吹いた気がした。

その風にのって、ふんわりとキンモクセイの香りが漂う。

彼は私を見守っててくれてる。

姿は見えなくても、隣にいてくれてる。

そのことがとても嬉しくて、幸せで。

私は机に飾ってあった彼の写真を手に取ると、それをぎゅっと抱き締めた。


「翔、見ててね。私のこと。
大好きだよ、…ばいばい」


愛する人に最後の別れを告げた

18歳の冬。


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