眠り姫と生贄と命の天秤
『おとなしく死んでくれればみんな幸せになれたのに』

「リコ?」

 急に黙りこんだからか、キトエが気遣うような顔で見つめていた。

「何でもない」と言おうとして、いずれは苦しくなってキトエに話すことになるだろうと思って、胸の中の痛みをかき出した。

「さっき言われたこと、わたしが死ねばみんな幸せになれたのにって、もちろん分かってはいたんだけど、面と向かって言われたらちょっと、つらかったなって」

 リコが選んだのはそういう道だ。自分を生かすかわりに、大勢の人々の幸せを犠牲にする。

「わたしが逃げたことによって、神の怒りに触れて、大勢の人が不幸になって、国が滅ぶのかな、って」

「違う」

 キトエは険しい顔をしていた。強い声は、怒っているのだとも思う。やはりこんな答えのない話をしないほうがよかったかと、緩く笑ってみせた。

「ごめんね、何でもない」

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