眠り姫と生贄と命の天秤
「違う、そうじゃない。あいつも、そう言う奴らはみんな自分の命じゃないからそう言えるだけだ。自分が生贄になったら同じことが言えるのか? 真っ先に逃げ出す。ただの高みの見物だ。まだ災いは起きてないし、もし本当に神の怒りに触れて災いが起きたとしても、俺は大勢の誰かよりリコが大切だ。リコを犠牲に望む神より、リコが大切だ。リコがいればいい。誰かの命を犠牲にしないと成り立たないなら、そんな国滅びればいい」

 キトエの言葉はとても強くて、苦々しくて、苛烈な怒りに満ちていた。

 けれど、苦しそうに、悲しそうに、視線に射抜かれる。

「だから、俺の前でまで無理に笑わないでほしい」

 息がつまった。

 キトエならリコのために怒るだろうということは分かっていた。けれど、そう言われるとは、思わなかった。

 無理に笑わないでほしい、と。

「あり、がとう」

 それ以上口にすると涙が出てきてしまいそうで、言葉をかんだ。悟られてしまっているだろうが、視線を下げる。

 キトエの前では、偽らなくていいのだ。生贄の少女ではなく、ひとりのリコとしていていいのだ。

「話せて、よかった」

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