全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
 あるとき、アメル公爵家の当主様がうちへ商品を見にやって来た。

 うちの店では希少なアンティーク品等も扱っており、貴族が訪れることも少なくない。そうは言っても、公爵様が直接来店する機会など滅多になく、両親は緊張と興奮の混ざった様子で彼を出迎えていた。

 両親は公爵様を手厚く接客した。私と兄も公爵をもてなすように言われ、店の中でも特に重要な方を招くために用意された部屋に呼ばれる。

 両親はその際ずっと兄の両隣にいて、公爵に兄のことを誇らしそうに紹介していた。

 私には事前に一言、公爵様に失礼のないよう礼儀正しくするようにと注意するだけだった。

 寂しい気持ちを隠すように、黙々と雑用をこなす。


 しかし、両親が見てくれない寂しさを紛らわせるために、紅茶を注いだり、以前教わった通り商品の紹介をしていただけだというのに、公爵の目には私がしっかりした子供に映ったようだった。

 帰り際、アメル公爵はそちらのダークブラウンの髪の子をうちに見習いに来させないかと両親に向かって尋ねた。うちで働けば、きっとこの子の将来にも役立つと。

 両親はお気に入りの長男ではなく、私が指名されたことを明らかに不満そうにしていた。

 しかし、公爵家と縁ができるメリットのほうが大きいと思ったのだろう。すぐさま表情を緩めて了承した。その間、私に意見が聞かれることは一切なかった。

 まだ九歳だった私は、家を離れてよその家、しかも公爵家なんて遠い世界で働くなんて不安だった。しかし、両親はそんな心情など気にも留めない。

 私はしばらくアメル公爵家に通った後、住み込みで働くことになった。
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