冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
それなのに、
私がカステラを切りに台所に行く時も、
使ったお湯を自ら持って付いて来てくれる。

なんで優しい人なのだろうと感動さえ覚える。

気付けば、この人とのこのひとときが、
大事で大切な時間だと感じ始めている自分に気付く。

本当に3年前に助けてくれた人なのでは?と思うけど…
違ったら、と思うと怖くて聞けない臆病な自分に嫌気がさす。

夜更けに食べたカステラが思いのほか美味しくて、張り詰めていた気持ちを溶かしてくれるように、大好きな古典文学について、
つい語ってしまっていた。

正臣様は相槌を打ちながら、
終始優しい瞳を向けて聞いてくれたから、
つい喋り過ぎてしまったかも知れない。

気付けば時計が12時を近くを指していて、
慌てて片付け就寝する為支度を整える。

どこに行くにも、出来るだけ私を1人にしないように行灯を持って着いて来てくれた。

おやすみなさいを伝え、与えられた部屋へと入り、話し過ぎてしまったかもと少しの後悔を胸に布団に入る。

久しぶりに楽しい時間を過ごした高揚感で
なかなか眠る事が出来ず、ドキドキと高鳴る胸を落ち着けるまで何度も寝返りを打つ。

あの人は短刀を握りしめて受け止めてくれたから手のひらに切り傷がある筈
……左手、だったかしら?

確かめたい。

もしもあの人が正臣様だったなら、
ちゃんとあの時のお礼をしたい。
微睡む意識の中であの人の面影を正臣様に探す。

背格好…やっぱり似てると思う……。
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