冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

雨が小雨になったのと同時に
待っていろと言い捨てて、
正臣が車を取りに走って行ってしまった。

香世は急に手を離され1人にされて、
言いようの無い寂しさを感じる。

直ぐに車は目の前に来て
中から正臣がドアを開けてくれから、
軍服を胸に抱きしめて急いで車に乗り込む。

「ありがとうごさいました。」
ふと正臣を見ると思った以上にびしょ濡れで
香世は目を丸くして、
慌てて手拭いを鞄から出して
正臣の濡れた髪をワシャワシャと拭く。

「ハハッ、まるで龍一になった気分だな。
ありがとう。」
されるがまま嬉しそうに正臣は身を任せる。

「こんなに濡れて風邪をひいてしまいます。寒くないですか?」

香世は心配でたまらないのに、
なんでそんなに楽しそうに笑ってるんだろうと首を傾げる。

「どうしてそんなに楽しそうなんですか?」

「香世が俺に遠慮ないから。」
あっ、と思って手を止める。

「ご、ごめんなさい。」
必死になり過ぎて配慮を忘れていた…
と香世はシュンとなる。

「いや、それが嬉しいんだ。
いつもそうして欲しい。」

そう言って香世の持っている手拭いを奪って、今度は正臣が香世の頭をポンポンと優しく拭いてくれる。

「あ…ありがとうございます。」

「早く帰えるぞ。香世が風邪を引いたら大変だ。」
そう言って車を走らせる。

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