冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「香世も遠慮せずに食べろよ。」
そう伝えるとまた、

俺ににこりと笑いかけてくれる。

「ありがとうございます。」
穏やかな微笑みをたたえてそう言う。

「香世姉さん、これ凄く美味しいよ。
うち何杯でも食べられる。」
真子が嬉しそうに笑う。

香世もふふふっと嬉しそうに笑い、

「良かったね。」
と、優しく真子を見守る。

朝食を食べ終え、
軍服に着替える為、箪笥部屋へ入る。

タマキがいつも着替えを手伝うのだが、

「旦那様、今日から香世様にお着替えを手伝ってもらってはどうですか?」
タマキが香世を連れて来る。

「…別に手伝いなど不要だ。」

俺は内心戸惑いぶっきらぼうに言い放すが、
長年一緒にいるだけあってタマキはまるで聞き耳を持たず、香世に勝手に指示を出す。

「香世様、軍服はいろいろ装飾があって扱いが難しいのですが、順序良く渡して行って下さいね。」

「はい。」 
と、香世は答え熱心に聞き耳を立てている。

俺が着物を脱ぎズボンを履くだけで、
真っ赤になって後ろを向いてしまう。

そんな初心な姿を見ると、
香世がまったく男慣れしていない事が良く分かる。

俺の方も若干戸惑い、普段よりは早めにシャツを羽織る。

「旦那様、うら若き乙女がいるのですから、
少しは配慮して下さいませ。」

タマキに何故か俺が咎められる。

「香世様、ワイシャツの襟元と腕のボタンを留めて差し上げて下さい。」

タマキの指導は淡々と続く。

香世が俺の前に立ち、真剣な表情で俺の襟首のボタンに手を掛ける。

俺と並ぶと香世の目線は襟首より下辺りなのだと言う事を知る。

少しやり難いのか香世が背伸びをする。

「旦那様は無駄にお背がお高いのですから、
少ししゃがんであげて下さいませ。」
また俺がタマキに咎められるが、
言われるままに少し膝を折る。

「留まりました。」
そうすると、幾分やり易くなったのか嬉しそうな顔をして香世が言う。

俺もついつられて微笑んでしまう。
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