シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
 無影灯もまぶしいし、なによりも彼の顔を真正面からみることになるのでさすがにはずかしく、私は治療中は前回同様目を閉じた。

「うん、問題なさそうだな。他の箇所も確認したけど状態はいい」

 お墨付きをもらってほっとした。

「椅子起こすぞ」

「うん」

 背もたれが元の位置にもどる。すぐに目の前の紙コップに水が注がれた。

「うがいして」

 言われるままに口をゆすぐ。

「次は三か月後でだいじょうぶだ。すっぽかさずにちゃんと来ること」

「はい、神河先生」

 わざとそんなふうに言うと、彼は軽く目を細めてこちらをにらんだあと、顔をほころばせる。そんなやりとりが少しくすぐったくて、でも楽しい。

「ありがとう。朝陽くん――ん?」

 私がお礼を口にした瞬間、インターフォンの音が聞こえてふたりして耳を澄ませる。診療時間が終わり受付が不在になっているので、入口に鍵をかけているからだろう。

「ちょっと見てくる。準備が出来たら待合室に来て」

「はい」

 彼が先に処置室を出て行った。

 私はひとりになったあともう一度口をゆすいで、ペーパータオルで口元を拭ってから診察台を下りた。

 かご入れていたバッグを手に、廊下に出ると話し声が聞こえる。

「痛いよ、痛いっ!」

 子供の声?

「すみません、もうとっくに診察終了しているのは承知なんですけど子供が転んで歯をぶつけてしまって。もしかしたらまだ先生がいらっしゃると思ってきたんですけど」

 母親の背中と、五歳くらいの子供が見える。朝陽くんはその子の前にかがんで口の中を見ていた。彼の背中で男の子の表情までは見えないが声色からかなり痛そうだ。
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