シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
 問題の前歯を確認すると朝陽くんがお母さんに説明をする。

「神経がどうなっているのか、また欠けてしまってる部分について早く治療をしたほうがいいです。今からお時間大丈夫ですか?」

「はい、あの……遅い時間で申し訳ないのですが、先生のご都合がよければ」

「こちらは構いません。ただ先ほども言ったように助手などは退勤していませんので、私ひとりの作業になるんですが、お子さんと処置室――」

「あーーーん」

 朝陽くんの言葉を遮ったのは、赤ちゃんの泣き声だ。火のついたような激しい泣き方にお母さんがほとほと困り果てている。

「空、ひとりでは無理ですよね」

「それは……」

 いくら空くんがいつもいい子で大人の話もよく理解できると言っても、まだ六歳になったばかりだ。こんな怖がっている状態でひとりでの治療は難しい。

 私は気がつけば声をあげていた。

「あの、私で良ければ傍についているくらいはできますけど、お母さんどうでしょうか? もちろん空くんがOKしてくれたら……ですけど」

「稲美先生、そんなご迷惑を……」

 お母さんは申し訳なさそうに私の方を見ている。

 しかし私は困り果てている空くんや、お母さんを放っておけなかった。

「ねぇ、空くん。先生と一緒に歯の治療しようか? この先生歯を治すのすっごく上手なんだよ。今先生も直してもらったんだから」

「そうなの?」

 私が力強くうなずくと、それまで完全に治療を拒否した態度だった空くんが少し考え始めた。私はあと一押しだと思い声をかける。

「ずーっと先生がそばにいてあげるから、一緒にがんばろう」

「ずっと? 先生が?」

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