ムーンサルトに 恋をして

翌日の夕方の便で帰国予定の私は、傷心が癒され、幸福感を味わえたことへの感謝の気持ちも込めて。
最後の夜は、ジルの為に時間を割こうを思っていた。

『どこか行きたい所は?したい事はないの?』
『最後の夜くらい、ジルのお願いごとを叶えてあげるよ』
『私もジルのために何かしてあげたいのに』

と通訳機で伝えても、無言で顔を横に振るだけ。
これでは、埒が明かない。

ブロードウェイでミュージカルを観劇した私たちは、通りを歩きながらほんの少しだけ喧嘩状態。
私が諦めるか、彼が折れるか。

『明日、日本に帰るんだよ?』

今日が最後だよ?と伝わるように何度も話しているのに。
気を遣って彼は何も言おうとしない。


すっかりデートコースに組み込まれた、彼のお兄さんが勤務しているお店で食事とお酒を楽しむ。
最後の夜だということもあって、ついつい飲み過ぎてしまったようで、ふらつく足でジルに支えられながらホテルへと戻った。

**

あ~クラクラする~~。
上機嫌でビールを4杯、ワイン1本飲んでしまった。

ジルの顔が揺れて見える。
あ、違うか。
私の頭が揺れてるのか。

「んッ……」

彼の肩に手を置いたつもりが、僅かに肩に手が届かず、彼の上着を掴んでしまったようだ。
天井を仰ぐ形で、ベッドに横たわる私の視界に、なぜかジルの綺麗な顔が見える。
上着を掴んだまま倒れ込んでしまったお陰で、彼を道連れにしてしまったらしい。

壁ドンならぬ、ベッドドン??

しかも、鼻先が今にも触れそうな距離に、思わず息をのむ。

「ナナ」

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