突然、あなたが契約彼氏になりました
「父は、大手の保険会社に勤めていました。あたしが中学一年の時、高速道路での事故で両親は亡くなりました。バスに後ろから追突されて車が潰れたんです。あたしは、その時、たまたま夏休みで友達の家に泊まっていたから死ななくて済みました。大河に寄り添って大声で泣きました。それ以来、ずっと大河のことが好きです」
大河は幼馴染の男の子だった。子供の頃は、お兄ちゃんと呼んで慕ってきた。
(大河はお日様のような人だった……。大好きな夫だったんだよ)
不思議だ。もう涙は出ない。親が亡くなった時よりも大河を失った時の衝撃の方が強くて耐え難い哀しみに薙ぎ倒されて、毎日、泣き続けた。身体から魂が抜け落ちたような気分だった。
家に閉じこもり続け、そのまま、自分も死んでしまいたいと呻いてのたうちまわった。今も大河への想いは溢れている。大河の写真をスマホの中に保存して繰り返し何度も何度も想い出に浸っている。
菜々は、フーッと溜め息まじりに苦笑する。
「田中さんの事情はよく分かりませんが、きっと薬を入れたのはお店のオーナーの樹理さんですね。多分、田中さんは、女の人と付き合う必要性に迫られて、あたしを誘ったんだと思います。その現場を見て嫉妬した樹理さんが一服盛ったんだと思います」
菜々がそう呟くと、小塚は困ったように笑った。
「土屋さんは純粋ですね……。確かに、カクテルに薬を入れたのは樹理さんかもしれませんが、今回の事は、田中さんの彼氏の嫉妬とは関係ないと思いますよ。田中さんの彼氏に関してキナ臭い話が聞こえてきたんですよ。土屋さんはインスタやってますよね。もし良ければ、匂わせ投稿してもらえませんか。僕と、熱烈に愛し合っていると思わせて、田中さんを暴走させます」
いきなり、そんな事を持ちかけられてもポカンとなるばかりである。
「暴走って何ですか?」
「田中さん、あなたと僕が付き合っていると知って動揺していたそうですね。なぜ、そこまでムキになるのか、正確なことを探るために我々は一芝居打つのです」
「そういうのは、ちょっと苦手というか、どうやるんですか?」
「それなら、僕が、いい塩梅に作成しますね。まずは映えるパフェを注文しますよ」
美味しそうな苺のパフェを前に、いろんな角度を探りながら何枚も撮っている。
そして、今度は、菜々に自分を撮るように言ってきた。やる気、満々のようだ。
「コーヒーのスプーンをかき混ぜる僕の手元を撮ってください。僕の指がセクシーに見えるようにしますね。この窓ガラスに僕の顔が反射しているのが分かりますか。それをさりげなく入れてください」
そうやって何枚も撮った画像を確認しながら小塚は不敵に笑った。
「まぁ、最初はこんな感じかな。女友達と一緒にいるように見せかけて、実は、彼氏というのを匂わせますね」
大河は幼馴染の男の子だった。子供の頃は、お兄ちゃんと呼んで慕ってきた。
(大河はお日様のような人だった……。大好きな夫だったんだよ)
不思議だ。もう涙は出ない。親が亡くなった時よりも大河を失った時の衝撃の方が強くて耐え難い哀しみに薙ぎ倒されて、毎日、泣き続けた。身体から魂が抜け落ちたような気分だった。
家に閉じこもり続け、そのまま、自分も死んでしまいたいと呻いてのたうちまわった。今も大河への想いは溢れている。大河の写真をスマホの中に保存して繰り返し何度も何度も想い出に浸っている。
菜々は、フーッと溜め息まじりに苦笑する。
「田中さんの事情はよく分かりませんが、きっと薬を入れたのはお店のオーナーの樹理さんですね。多分、田中さんは、女の人と付き合う必要性に迫られて、あたしを誘ったんだと思います。その現場を見て嫉妬した樹理さんが一服盛ったんだと思います」
菜々がそう呟くと、小塚は困ったように笑った。
「土屋さんは純粋ですね……。確かに、カクテルに薬を入れたのは樹理さんかもしれませんが、今回の事は、田中さんの彼氏の嫉妬とは関係ないと思いますよ。田中さんの彼氏に関してキナ臭い話が聞こえてきたんですよ。土屋さんはインスタやってますよね。もし良ければ、匂わせ投稿してもらえませんか。僕と、熱烈に愛し合っていると思わせて、田中さんを暴走させます」
いきなり、そんな事を持ちかけられてもポカンとなるばかりである。
「暴走って何ですか?」
「田中さん、あなたと僕が付き合っていると知って動揺していたそうですね。なぜ、そこまでムキになるのか、正確なことを探るために我々は一芝居打つのです」
「そういうのは、ちょっと苦手というか、どうやるんですか?」
「それなら、僕が、いい塩梅に作成しますね。まずは映えるパフェを注文しますよ」
美味しそうな苺のパフェを前に、いろんな角度を探りながら何枚も撮っている。
そして、今度は、菜々に自分を撮るように言ってきた。やる気、満々のようだ。
「コーヒーのスプーンをかき混ぜる僕の手元を撮ってください。僕の指がセクシーに見えるようにしますね。この窓ガラスに僕の顔が反射しているのが分かりますか。それをさりげなく入れてください」
そうやって何枚も撮った画像を確認しながら小塚は不敵に笑った。
「まぁ、最初はこんな感じかな。女友達と一緒にいるように見せかけて、実は、彼氏というのを匂わせますね」