突然、あなたが契約彼氏になりました
以前、新しくレンタルしたコピー機やコーヒーメーカーの使い方が分からないと言って騒いでいた。説明書を読めば分かるのに、分からないと言えば周囲の女子がやってくれるので覚える気がない。みんなでバーベキューをした時などは面倒な片付けなどしないけれども、その代わり、頑張っている人の事を褒めてあげるので、みんな、喜んで田中に尽くすという構図が出来上がっている。
「僕は、田中さんと同じ中高一貫の私立学校の後輩なんですよ。といっても、お互い、喋った事はないんですが、彼の顔は知ってましたよ」
小塚の言葉に菜々はお箸を止める。
「昨日の夜、僕は、友達の家に行って卒業アルバムを入手しました。友達の兄貴が田中さんのクラスメイトなんですよ。調べていて気付いた事があります」
今度は、小塚がスマホを差し出して卒業生の顔写真を見せたのだが……。誰だろう。
「この人は誰かに似ていますよね? 僕が高校一年生の時、田中さんは高校二年生。そして、この人物は高校三年生です」
グレーのお坊ちゃま風の制服姿の高校三年生の男子生徒だが陰キャラのように見える。自信の無さそうな顔をしている。
「英会話クラブの部長の徳光和真という三年生です。同じクラブに所属していた僕の友達が言うには、いつも穏やかで優しい人だったようです。時々、とても寂しそうな顔をしていたので、それが妙に印象に残っていると言っていました」
「へーえ、この人、ちょっと徳光さんに似てますね、もしかして親戚の方ですか」
それに対して小塚がやんわりと首を振る。
「おそらく、これが徳光エルザさんですよ」
「はぁ?」
「顔の大部分を整形しているようですね。徳光エルザとして生まれ変わったのだと思います」
「パスポートを見た事があるけど、ちゃんと女性と明記されていましたよ」
「戸籍も変えたのでしょうね。徳光さんの大学以前の学歴に関するデータは閲覧できないんですよ。性転換をしている方への配慮なのかもしません」
トランスジェンダーだとしてもおかしくないが、さすがに少しショックだった。
「徳光さん、あたしよりも胸が大きいんですよ」
「豊胸手術の賜物でしょうね」
ロッカールームで何度か徳光さんの下着姿を見ているのだが、以前は男だったなんて気付かなかった。
いささか動揺したせいで会話が途切れてしまっている。小塚は、菜々の本音を推し量るようにして尋ねてきた。
「それにしても、不思議なんです。他の女性は争うように田中さんと話したがるのに事件とは関係なく、以前から、あなたは田中さんに対して興味はなさそうでしたね」
「死んだ夫のことが今も好きだから、他の異性はどうでもいいんです」
そう伝えると、小塚は瞬きを忘れたような真剣な顔で頷いた。
「ご主人は素敵な人だったのでしょうね」
「僕は、田中さんと同じ中高一貫の私立学校の後輩なんですよ。といっても、お互い、喋った事はないんですが、彼の顔は知ってましたよ」
小塚の言葉に菜々はお箸を止める。
「昨日の夜、僕は、友達の家に行って卒業アルバムを入手しました。友達の兄貴が田中さんのクラスメイトなんですよ。調べていて気付いた事があります」
今度は、小塚がスマホを差し出して卒業生の顔写真を見せたのだが……。誰だろう。
「この人は誰かに似ていますよね? 僕が高校一年生の時、田中さんは高校二年生。そして、この人物は高校三年生です」
グレーのお坊ちゃま風の制服姿の高校三年生の男子生徒だが陰キャラのように見える。自信の無さそうな顔をしている。
「英会話クラブの部長の徳光和真という三年生です。同じクラブに所属していた僕の友達が言うには、いつも穏やかで優しい人だったようです。時々、とても寂しそうな顔をしていたので、それが妙に印象に残っていると言っていました」
「へーえ、この人、ちょっと徳光さんに似てますね、もしかして親戚の方ですか」
それに対して小塚がやんわりと首を振る。
「おそらく、これが徳光エルザさんですよ」
「はぁ?」
「顔の大部分を整形しているようですね。徳光エルザとして生まれ変わったのだと思います」
「パスポートを見た事があるけど、ちゃんと女性と明記されていましたよ」
「戸籍も変えたのでしょうね。徳光さんの大学以前の学歴に関するデータは閲覧できないんですよ。性転換をしている方への配慮なのかもしません」
トランスジェンダーだとしてもおかしくないが、さすがに少しショックだった。
「徳光さん、あたしよりも胸が大きいんですよ」
「豊胸手術の賜物でしょうね」
ロッカールームで何度か徳光さんの下着姿を見ているのだが、以前は男だったなんて気付かなかった。
いささか動揺したせいで会話が途切れてしまっている。小塚は、菜々の本音を推し量るようにして尋ねてきた。
「それにしても、不思議なんです。他の女性は争うように田中さんと話したがるのに事件とは関係なく、以前から、あなたは田中さんに対して興味はなさそうでしたね」
「死んだ夫のことが今も好きだから、他の異性はどうでもいいんです」
そう伝えると、小塚は瞬きを忘れたような真剣な顔で頷いた。
「ご主人は素敵な人だったのでしょうね」