突然、あなたが契約彼氏になりました
それを聞いた田中は、仕事なら仕方ないとばかりに別方向へと歩き出した。やたらと甘ったるい田中の香水の匂いが遠ざかりホッとしていた。
(女子社員は、このゴージャスな香水の匂いが好きだって言ってたな)
菜々は、どちらかというと石鹸の匂いの方が好きだ。ちなみに、小塚の衣服からは柔軟剤の匂いが漂っている。エレベーターに乗り込み、二人きりになると、彼は、思いがけない事を言い出した。
「今日のお昼はどうなさいますか? お弁当を持参されていますか?」
「あっ、はい。今日もお弁当を持参していますけど」
「もし良かったら、会社の裏手にある公園で一緒に食べませんか? 調べて分かった事があるので報告したいんです。徳光さんが帰ってくる前に伝えたいと思いまして……。今日が無理なら明日でも構いませんが……」
「いえ、ぜひ、今日、聞きたいです」
もちろん、菜々は二つ返事でOKする。正午になり、午前の仕事を終えると、いそいそと公園へと向かった。木製のベンチが等間隔に設置されている。
小塚が場所取りをして待っていた。目の前には噴水があり、水音が心地いい。
「ここ、僕のお気に入りの場所なんですよ」
「いつも、一人で、ここにいらしているんですか?」
「以前は会社の食堂で食べていたんですけど、女子社員の方達に一緒に食べようと誘われるのが何だか煩わしくて……」
女嫌いなのかしらと思っていると彼はボソリと呟いた。
「彼女達、僕のお弁当箱を見て笑うんですよ。そんなに可笑しいですかね?」
改めて見てみると、小塚が手にしているお弁当箱は年季が入っていた。しかも、お弁当を包むナプキンも色褪せていて古ぼけている。
「お弁当箱は亡くなった父が使っていたものです。貧乏なんで何でも長く使うんです」
「昨夜の献立は、もしかして、おでんですか?」
「はい、そうです。卵、大根、こんにゃく、焼き豆腐。昨夜の残り物を詰めています」
なるほど。小塚の母親も何かと忙しいのだろう。煮汁が白飯に染みて茶色くなっている。映えという点ではマイナスだ。
そのまま、ベンチに並んでお弁当を食べたのだが何とも妙な気分だった。小学生の時の遠足を思い出して、牧歌的な気持ちになってくる。
たまには、こうやって外で食べるのもいいものだ。新緑が眩い公園の木々に癒されていると小塚が語り出した。
「早速なんですけど、田中さんは、これまでにトラブルのようなものは何もありませんでした。ルックスがいいので営業に向いていますが、パソコンに疎いタイプみたいですね。営業の補佐をしている女性が有能な人なんで、全部、お任せしているみたいです。人を使うのが上手いというか、ある意味、田中さんは小悪魔ですね。あっ、人たらしと言うべきなのかな」
「あっ、それ分かります」
(女子社員は、このゴージャスな香水の匂いが好きだって言ってたな)
菜々は、どちらかというと石鹸の匂いの方が好きだ。ちなみに、小塚の衣服からは柔軟剤の匂いが漂っている。エレベーターに乗り込み、二人きりになると、彼は、思いがけない事を言い出した。
「今日のお昼はどうなさいますか? お弁当を持参されていますか?」
「あっ、はい。今日もお弁当を持参していますけど」
「もし良かったら、会社の裏手にある公園で一緒に食べませんか? 調べて分かった事があるので報告したいんです。徳光さんが帰ってくる前に伝えたいと思いまして……。今日が無理なら明日でも構いませんが……」
「いえ、ぜひ、今日、聞きたいです」
もちろん、菜々は二つ返事でOKする。正午になり、午前の仕事を終えると、いそいそと公園へと向かった。木製のベンチが等間隔に設置されている。
小塚が場所取りをして待っていた。目の前には噴水があり、水音が心地いい。
「ここ、僕のお気に入りの場所なんですよ」
「いつも、一人で、ここにいらしているんですか?」
「以前は会社の食堂で食べていたんですけど、女子社員の方達に一緒に食べようと誘われるのが何だか煩わしくて……」
女嫌いなのかしらと思っていると彼はボソリと呟いた。
「彼女達、僕のお弁当箱を見て笑うんですよ。そんなに可笑しいですかね?」
改めて見てみると、小塚が手にしているお弁当箱は年季が入っていた。しかも、お弁当を包むナプキンも色褪せていて古ぼけている。
「お弁当箱は亡くなった父が使っていたものです。貧乏なんで何でも長く使うんです」
「昨夜の献立は、もしかして、おでんですか?」
「はい、そうです。卵、大根、こんにゃく、焼き豆腐。昨夜の残り物を詰めています」
なるほど。小塚の母親も何かと忙しいのだろう。煮汁が白飯に染みて茶色くなっている。映えという点ではマイナスだ。
そのまま、ベンチに並んでお弁当を食べたのだが何とも妙な気分だった。小学生の時の遠足を思い出して、牧歌的な気持ちになってくる。
たまには、こうやって外で食べるのもいいものだ。新緑が眩い公園の木々に癒されていると小塚が語り出した。
「早速なんですけど、田中さんは、これまでにトラブルのようなものは何もありませんでした。ルックスがいいので営業に向いていますが、パソコンに疎いタイプみたいですね。営業の補佐をしている女性が有能な人なんで、全部、お任せしているみたいです。人を使うのが上手いというか、ある意味、田中さんは小悪魔ですね。あっ、人たらしと言うべきなのかな」
「あっ、それ分かります」