夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。
無視をするも,もう一度鳴る。

誰か出るだろうと待っていれば,気の短い客人はもう一度鳴らした。

そう言えば……

今日は2人でどこかに買い物に行くと,昨日話していた気がする。

弟も俺がいるのにわざわざ下に行こうとはしないだろう。

もう一度,音を鳴らされる予感がした。

いつもくる宅配の人は,2回でこれ幸いと玄関に置いて去っていくのに。



「すみませーん,ちょっと待ってください……ー」



俺は日差しの鬱陶しい窓を開けて,下を確認せずに声をあげる。

喉がかれて,上手く声はでなかった。

ぼさぼさ頭の寝巻きでも,宅配の人なら許してくれるだろう。

あくびをして,人を待たせてると自覚しながらもゆっくり起き上がる。

部屋を出て階段を降りようとすると,春陽の部屋からカタッと音がして。

俺は昨日から起きていたのか,もう起きていたのかとどうでもいいことを考えた。

ドアを開ける直前,またチャイムのボタンが押される。



「はー……」



え?

なんて間抜けな声は,実際には出なくても。

間抜けな顔が,十分表現してくれた。

そこにあるのは,いるはずのない,夢の続きかもしれない彼女の姿。

どうして……?

自分を語らない彼女はいつも,俺の目には突拍子がなく見える。
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