夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。
はぁ,とお父さんのため息が広がる。

両目を片手で覆うように押さえ,私から顔をそらした。



「勝手にしろ。……俺はもう疲れた。すき焼きは明日かってに食べるから,俺の分だけ取っておいてくれ。今日は寝る」

「え,えぇ。お父さ……」



お母さんの呼びかけには応えず,お父さんは奥の部屋へと去ってしまった。

また,ぐるぐると考えて……そして,涙を流したり,するのだろうか。



「ごめんね,好暖ちゃん」

「謝らないで下さい……春陽くんのために」



お母さんは泣き出しそうな顔で春陽くんをみた。

顔を合わせられないとでも言うように,春陽くんはバツの悪そうな顔で俯いている。

なんどもそんな思いをしたのだろう。

自分を理由に,誰かが怒って,謝って,すれ違って。



「さっきの,話だけれど……いつでも辞めてくれていいからね」



せめてと紡いだ言葉は,きっと本意ではない。

ただ大人として,同年代の子を持つ親として。

だから私もはっきりと告げた。



「辞めたりしません。次の冬までは,私はずっと諦めずに春陽くんを呼びに来ます」

「どうして」



私は少し困って,その後こう答えた。



「堤くんと春陽くんの2人に……救われているからです」



お母さんは首を傾げ,2人の兄弟も息を呑む。

いいの,分かってくれなくても。

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