婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 なんでもないことのように話しているけれど、ここまで乗り越えるのにどれだけの辛酸を舐めてきたのか想像に難くない。

 フィル様が国王陛下たちを決して父と呼ばないのも、両親の愛を知らないと言い切るくらいの経験をしてきたからだ。

「とにかく、あの時に義姉上は心から兄上を大切にしてくださっているのだと理解しました。無礼を働いたことを改めてお詫びいたします」
「そうだったのですね。これからもフィル様を支えてくださるなら、もう大丈夫です」
「当然です! 兄上はもちろん、義姉上も支えていきます!」

 やっと平和的な空気になり、そろそろ妃教育は始まる時間になる。私はお茶を飲み干し、チラリと時計に視線を向けた。

「それにしても兄上が義姉上にベタ惚れなのはよくわかりました」
「ラティは僕の女神だからね」

 フィル様に視線を戻すと、うっとりするような笑みを浮かべて私の髪を掬いキスを落とす。

 目の前にはアルテミオ様もアイザック様もいるのに甘ったるい空気が漂い、恥ずかしさに耐えられなくなった私は勢いよくソファーから立ち上がった。

「そ、それでは、私は妃教育がありますので、失礼いたします……!」

 そう言って逃げるようにフィル様の執務室を後にした。


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