婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
「ごめん、少しだけ我慢して」

 そう言って、フィル様は過激すぎる毒物チェックを始める。驚きのあまり一瞬だけ吐き気も腹痛も吹き飛んだ気がした。

 五秒ほどされるがままになっていると、やっとフィル様から解放される。

「イルジン系か。解毒薬が僕の部屋にあるから——」
「解……毒薬……持って、ます」

 ドレスのポケットからイライザ様が用意してくれた解毒薬を取り出した。イルジン系の毒ならこの解毒薬でも十分効果がある。

 フィル様は私から解毒薬を取り上げ、一気に口に含んだ。そして、それを口移しで私に飲ませる。

 解毒薬は甘く熱く、それは即効性のある解毒薬の効果なのか、フィル様の口移しだからなのかわからない。私が理解したのは、本当にフィル様はキスだけで毒物を絞り込めるのだということだ。

「はあ……よかった。解毒薬が効いたみたいだね」
「あ、ありがとうございます。もう吐き気も腹痛もないです」
「ところで……フェンリル」

 黒い笑みのフィル様が、低く凍てついた声でフェンリルを呼び出した。

《わーっ! ちょっと待ってくれ! 本当になにも匂わなかったんだって!! 絶対なんか特殊なことやったはずだって!!》

 影から飛び出したフェンリルは、私の背中に隠れて怯えている。可哀想なくらい震えているので、フェンリルのフォローをしようと思った。

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