婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 愛しい人の声とともに背中から抱きしめられ驚いて振り返ると、いつもの穏やかな笑顔がそこにあった。

「フィル様!」
「ごめんね、ノックをしたけれど返事がなくて入ってきたよ。そんな不安そうな顔をしないで。今日の国議もなにも問題ないから」
「……そうですね。私はできる限りのことをするだけです」
「うーん、ラティはニコニコしたまま座っているだけで構わないよ?」

 フィル様は私が婚約者のままだと言わんばかりだ。いつもと同じように接してくれるけれど、やはり不安が消えない。

「ですが……」
「だって、僕がラティを手離すわけがないでしょう?」

 いつもよりどす黒いフィル様の笑顔を見て、本当になんとかしそうだと思った。

「わかりました、私はフィル様を信じます」

 少し心が軽くなり、いよいよ国議が開かれる会議室へと向かう。会議室へ入ると一斉に視線が集まるけれど、妃教育で学んだように背筋を伸ばして堂々と振る舞った。

 会議室にはアルテミオ様や三大公爵家をはじめ、国中から貴族たちが集まっている。ブリジット様も認定試験の結果発表があるからこの場にいて目が合ったが、驚きと悔しさが入り混じった表情を浮かべていた。

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