婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 フィル様はどこまで深く私のことを考えてくれるのだろう。治癒室は私の大切な居場所だった。彼らがこれからも笑顔で平和に過ごせるよう、いつも願っていた。

 これから私はフィル様の優しさに包まれて、きっと歴代一幸せな王妃になるのだと思った。

 フィル様はさらに言葉を続ける。

「それから、近々王都で『女神の末裔』という演劇を王室のバックアップで公演するんだ。治癒魔法しか使えない女性治癒士が、王太子の命を救って王妃にまで上り詰める話で——」
「ちょっと待ってください! それは聞いていませんが!?」

 それはまんま私とフィル様の話ではないか。自分が演劇のネタにされるだなんて想像もしていなかったし、できることなら……いや、絶対に遠慮したい。

「うん、だってサプライズだから。これを流行らせて、治癒魔法の使い手に対する偏見をなくしたいんだよね」
「陛下のアイデアは無駄がなく、成功すれば一気に民の意識を変えられるでしょう。フィルレス様とラティシア様の愛が深いことも伝わりますし、月の女神の末裔が実在すると周知するのに役立ちます」

 アイザック様まで熱く語り、演劇がいかに有効なのか落とし込んでくる。この場に味方がいるとしたら、エリアスしかいない。私が視線を向けると、以前と変わらない穏やかな笑みを浮かべてこう言った。

「ラティシア様、妻も娘も演劇を楽しみにしています。微力ですが宣伝もしますね」

 完全に四面楚歌だった。

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