婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
「まあ、また書類のお届けですの? このような雑用ばかりで大へ——」
「ラティ! さっき別れたばかりだけど、また会えて嬉しいよ」

 ブリジット様の言葉を遮り、フィル様が満面の笑みで出迎えてくれる。書類を受け取りその場で目を通してくれた。

「これを届けろと、それだけ?」
「はい、この後戻ってから報告しなければいけません」
「ふうん……まあ、僕はラティに会えるからいいけどね」

 そう言って、私の頬に口付けを落とす。瞬間的に顔が火照り、真っ赤になっているのが自分でもわかった。

 それに今日もブリジット様とアルテミオ様の息を呑む様子が伝わってくる。ふたりとも目を見開き固まっていた。フィル様はニコニコと胡散臭い笑みを浮かべているから、わかった上でこんな行動を取っているようだ。

「それではよろしくお願いします。では妃教育に戻ります」
「うん、頑張って。また昼食の時に」

 名残惜しそうに私の髪にもキスを落として、フィル様は見送ってくれる。王妃様の執務室へ戻る廊下でアルテミオ様が珍しく声をかけてきた。

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