君が導き出してくれた私の世界

「ところで、小春にお願いがあるんだけど、夕食の準備手伝ってくれる?」

「いいよ。なにすればいい?」

「今日は、肉じゃがの予定だからじゃがいもをひと口サイズにきってくれると助かる」

「分かった」

キッチンに向かい、台所にお母さんと並んで夕飯の準備を進める。

「最近、楓くん元気にしてる?」

いきなり楓くんの話題になって、思わずじゃがいもの皮を切るどころか指まで切ってしまいそうになった。

「う、うん。元気にしてるよ」

なんとか笑顔を取り繕って、お母さんに頷きを返した。

楓くんは元気にしてる。

多分。

「夏休みなのに、全然遊びに来てくれないから心配になっちゃって」

お母さんの言葉に、胸がチクリと痛んだ。

私は手元に持っているじゃがいもを見つめたままぽつりと言った。

「……バイトで忙しいからだよ」

半分は本当のことで、もう半分は嘘。

「そっか。じゃあ、明日、学校で楓くんに会ったら、いつでも遊びに来ていいからねって伝えといてくれる?」

今では楓くんのことをすっかり気に入っているお母さん。

「分かった。伝えとくよ」

そう返事をして、じゃがいもの皮を剥くのを再開した。

本当は、あの日、唯花ちゃんと喫茶店に行って以来、楓くんとは会っていない。

会わないまま夏休み最終日を迎えてしまった。
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