【コンテスト作品】たこ焼き屋さんの秘密。
「だからさ、智世里さんがここ通る度に、嬉しいなって思ってたんだよね」
「……そうなん、ですか?」
全然、そんな感じしなかったから分からなかったよ。
「そうだよ。 で、智世里さんはここ数日すごい疲れてそうだったから、心配してたんだ。……まあ、俺のお節介かもしれないけど」
「ううん……嬉しいです」
「え?」
私はお箸を置くと、「ありがとうございます。そんな風に思ってくれて」とお礼を伝えた。
「心配させてたなんて知らなかったから……嬉しいです」
「そっか。よかった」
郁さんは、本当に優しい人だ。たこ焼き屋の前を通ってたまにたこ焼きを買って帰るお客なのに、こんな風に思っててくれて……。すごくすごく、嬉しい。
「好きだって言ってくれたことも……その、嬉しいです」
「だって、本当のことだから」
郁さんの優しさに、私は甘えてしまいたくなる。恋愛なんてあまりしたことがない私だからこそ、甘えていいのか分からないけど、なんかこう……ドキッとする何かがあることだけは分かる。
「返事はすぐにじゃなくていいから」
「え?」
「ゆっくり考えてくれればいいよ、ゆっくり」
「ゆ、ゆっくり……?」
「そう、ゆっくり」