ダイエット中だけど甘い恋を食べてもいいですか?
するとそれを見計らったように、派手なヒョウ柄のスパッツを履いた、常連の中年女性である晴山(はれやま)さんが私に話しかけた。

「アンタ、最近、あの男前と仲良しだわね。」

「はい。お友達になりまして。」

「友達ィ?そうは見えないけど。あれはきっとアンタの事狙ってるね。」

「まさか。だって友達になって欲しいって言われたんですよ?」

「アンタ、馬鹿だねえ。そんなの口実に決まってるだろ?男ってのは臆病な生き物なんだよ。徐々に近づいて、頃合いを見計らってパクっと食っちまうって手法なのさ。」

「食われませんってば。私、美味しくありませんから。」

「そんなことないさ。アンタはボインちゃんだし。」

晴山さんは私の胸の辺りをしばらくじっとみつめた。

「あはは。晴山さん、ボインちゃんって死語ですよ?」

「じゃあ今どきの言葉で言うけど、あの男は絶対におっぱい星人だね。」

「・・・・・・。」

突然変なことを言わないで欲しい。

響さんは私を妹みたいに思っているんだから。

きっと女としては見られていないんだから。

「ま、それはそれとして。」

晴山さんは急に小声になり、私の耳元で内緒話をするように話し出した。

「あの男には気を付けた方がいいかもね。」

「え?なんでですか?」

怪訝な顔をする私に、晴山さんはさらに小声で言った。

「ここだけの話だけどさ。」

「はい。」

「あの男、反社かもしれないよ?」

「反社?」

「ヤクザものってことだよ。」

「ええー?まさか!ひび・・・澤乃井さんは紳士だし、指だってちゃんと5本づつありますよ?」

「私は聞いちゃったんだよ。あの男がスマホで通話しているところをさ。あの男、何を話していたかと思えば、覚醒剤がどうだとか、あの野郎首を洗って待ってろだとか。ああ、怖ろしい。」

「・・・・・・。」

「ま、気を付けな。」

晴山さんは言いたいことだけを言うと、私の背中をばしんっと強く叩き、再び筋トレマシンへ戻っていった。

「痛っ!あのオバサン、力加減ってものを知らないんだから。」

中年女性と言ってもフィットネスクラブで鍛えている人なわけで、その腕力は半端ない。

それにしても響さん、晴山さんからかなり危ない存在として認識されているらしい。

晴山さんはフィットネスクラブ内での知り合いも多そうだし、そんな噂を流されるなんて響さんが可哀想だ。

でも私はそんなこと気にしない。

たとえ響さんが反社だろうがヤクザだろうが、大切な私の友達だもの。


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