結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
歯磨きを済ませて顔を洗った柚香は、鏡に映った自分の姿を見た。
いつも大きな眼鏡をかけて、髪もボサボサにしている柚香。
だが今日は…。
洗面台においてあるブラシを手にとると、ボサボサの髪を綺麗に整えた。
髪を綺麗に整えると、柚香は聖龍に似た感じになる。
目元がハッキリして、聖龍を女性にしたような感じで…思わず目を止めてしまう美しさが備わっている。
洗面所を後にした柚香は部屋に戻り、いつもはあまりしないメイクをし始めた。
それほど濃いメイクではなく、自然で。
いつも大きな眼鏡をかけているが、今日はコンタクトにしてメガネを外してみた。
メイクを綺麗にしていると、愛香里にも似た感じがある柚香。
聖龍の部屋に飾ってある愛香里の写真と、よく似ている。
いつもは地味なスーツを選ぶ柚香だが、今日は明るいブルーのスーツを選びボブヘヤーだった髪は肩まで届く程長くなり後ろで綺麗に束ねてシックな茶色いシュシュでとめている。
綺麗に整え明るい色のスーツ姿の柚香は、いつもより10歳以上は若く見える。
今日も1日が始まる。
柚香はいつも、聖が出勤してから歩いて出勤している。
朝のバスは込み合って好きではなく、歩いて行っても20分もかからないから良い運動になると言っていた。
今日も歩いて出勤する為に、柚香はいつも通り歩いてきた。
門から柚香が出てくると。
「柚香」
え? と、驚いて見ると聖がいた。
「今日から俺も歩いて行く事にしたよ」
「何を言っているのですか? こんな時間からじゃ、遅刻じゃないですか」
「別にいいんじゃない? 遅刻して、仕事が遅れたらその分残業した良いだけじゃないか」
言いながら歩み寄って来た聖は、そっと柚香の手を握った。
「遅刻しても、柚香と一緒に歩いて行けるなら。その時間の方が、俺にとっては幸せな時間だから」
柚香の手を引いて歩き出した聖。
ちょっと引っ張られるように、柚香は歩いて行った。
握られている聖の手からは、とても暖かく安心できるエネルギーが伝わって来る。
…とっても優しい手をしている…こんなに優しい人が、人を殺そうなんて考えるわけがない。
きっと、その事は私も分かっていた筈。
でも、恨まれているなら私も恨む理由が欲しかったからお父さんとお母さんを殺した人だと思っていた。
この人だってきっと同じだったに違いない。
あんなに小さな頃に、母親が殺されて泣く事も我慢して…それでも前を見る為には、私の事を憎むしかなかったのだ。
柚香の中で後悔する気持ちと、まだ整理しきれない気持ちが揺れていた。