彼女の夫 【番外編】あり
グラスを傾けながら、俺は黙って聞いていた。
そうするより他になかったというのもあるが、横で話す編集者の意図が分からなかったからだ。


「結婚からちょうど3年が過ぎたあたりで、話し合って、友人に戻ることにしました」

「え・・?」

「離婚したんですよ。俺たち」


俺はグラスをカウンターに置き、考えを巡らせた。

28の時に結婚して、3年で離婚。
俺と出会った時、確か彼女は32・・。


「重なって・・いない?」

「そう。重なっていません。俺のバカみたいな嫉妬ですよ・・」

そう言って、編集者はカウンターに突っ伏した。

「あんたみたいに何でも手に入る男に、蒼を取られたくなかった。俺だって、蒼を愛していたんだ。
だから・・・・俺はあんたに、俺が蒼の『夫』だと言った。社会的地位もあるし、会社へのリスクを考えれば不倫なんてしてる場合じゃない。すぐに手を引くだろうと思った。そして、その通りになった。
蒼にも言いましたよ。あの男・・つまりあんたには既に決まった婚約者がいて、離婚歴のある女が入り込む隙間なんて無い、婚約者を傷つけるな・・ってね」

「そんな・・」


俺は言葉を失い、2年前、ロサンゼルスで彼女と別れ際にした会話を思い出していた。

『ごめんなさい、黙っていて』

この編集者との離婚歴のことを言っていたのか・・。

そして俺が言った『蒼を奪って、どこかに逃げてた・・』というセリフも、彼女にしてみれば理解に苦しむ内容だったわけだ。

だから最後に『玲生さん、奪うって・・』と口にしていたんだ。

全てが、繋がった。


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