彼女の夫 【番外編】あり
「俺と蒼は・・。蒼が28の時に結婚したんです。俺は、36だったかな」

「・・そうですか」

「男の36とかモテ期じゃないですか。俺、相当モテたんですよ。見た目も、こんなだし」

「・・・・」


突然話し始めた馴れ初めに、俺は戸惑う。
どんな顔をして聞けばいいのか、そもそも・・俺が聞くべきことなのか。

「それでね」

「あの、坂本さん」

俺は話を遮る。

「今更、聞かされる話ではないと思うんですが」

「・・分かっています。あともう少し、話していいですか?」

「・・はい」

「俺ね、蒼が夜勤の時とか遊び回ってたんですよ。蒼は、もともと内科医で大学病院勤めだったんで、ほとんど家にいなくて。
寂しかったんですよね・・俺」

周りの女性は構ってくれるのに、勤務医の彼女は忙しくて全く・・と。

同じ家で暮らせば一緒にいる時間が増えるからと結婚したはずが、何も変わらないどころか、仕事に対するお互いの考え方の違いに、気持ちが徐々にすれ違っていったそうだ。

「蒼なりに、どうにかしたいとは考えていたんでしょうね。皮膚科医の友人が海外ボランティアに参加したいからと、クリニックを任せられる人を探していたようで、蒼が大学病院を辞めて引き受けました」

「そう・・でしたか」

「でも、結婚前のような気持ちには戻れませんでした。彼女が待っていると思うと束縛されるような気分になってしまって、今度は俺が家に帰らなくなったんです」


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