彼女の夫 【番外編】あり
入れ替わりで中に入ってきた彼女は、俺の横を素通りして奥へと進んでいく。

「蒼、待って」

「・・服部さんのところに戻らないと」

怒っているのか、立ち止まったものの俺を振り返りもせずに言った。

でも、怒るのも無理はない。
親父を・・患者をしばらく放置したような状態にしてしまったのだから。

「あ・・。悪かった、時間取らせて」

「玲生さん、悪いけど今日は帰ってもらえる? 服部さんは容体も安定したし、私が責任を持って一晩預かるから」

「え?」

「・・自分のことしか考えていない人は嫌なのよ。服部さんが倒れた時も、そして今も」

そう言うと、硬い表情のまま処置室に入っていった。


嫌って・・何だ?
もしかして拒絶されたのか?


「何でだ? 蒼が一番じゃダメなのか? なぁ高澤、俺は間違ってるのか?」

「社長、病院ですから声を抑えて」

「だってそうだろ! あいつに・・坂本に連れ去られたら、蒼は・・俺は・・・・」

「・・早坂先生は、社長に信じてほしかったんだと思いますよ。
たとえ社長が会長を優先しても、坂本さんと一緒に行くようなことは無かったと。それに、こんなふうに社長に見張られていなくても、きっちり話ができたはずだと」

彼女が入った処置室の方向を見ながら、高澤が静かに呟く。

その後、『今夜は先生にお任せしましょう』と言って高澤は俺を車に押し込み、日付けが変わるまで俺の愚痴に付き合ってくれた。


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