だからこの恋心は消すことにした。




そうなればもろもろの準備が必要になってくる。

魔法使いたちも暇ではない。一人一人のスケジュールを見て、それから事件の概要を見て、誰に行ってもらうのが適任か考えなければならない。
また彼らはとても個性的で曲者だ。私や国王様の言葉に素直に頷く者もいれば、そうではない者、また条件付きで頷いてくれる者もいる。
いろいろと加味して考えなければならない問題だ。



「まずは予定の確認からですね…」



頭の中でぐるぐると回る言葉たちをまとめて、秘書室のものほどではないが、簡単な事務作業のできる机と椅子の方へと向かい、腰を下ろす。
それから私は机に置いてあった分厚い本のようなノートを開くと、1ページづつ丁寧に目を通し始めた。



「そんな格好で何してるの」

「…え」



少しだけ仕事に没頭していた私に窓の方から誰かが話しかけてきたことにより、私はノートから窓の方へと視線を向ける。
するとそこには三日月を背にして、こちらを呆れたように見つめるエイダンが立っていた。



「ど、どうされたんですか?」

「それはこっちのセリフなんだけど」



突然現れたエイダンに驚いていると、エイダンがおかしなものでも見るような目で私を見つめ、私の方へとスッと手を伸ばす。
男の人の手にしては美しく細いエイダンの指先。
そこから柔らかな光がふわりと舞い、その光は私の方へとやってきた。
そしてその光は私の髪へまとわりつき、キラキラと輝きを放ちながらその姿を消した。

…魔法だ。
エイダンは今、魔法で私の髪を乾かしてくれたのだ。



「髪も乾かさず仕事?しかもこんな時間に。もう寝る時間だよね?秘書官様は忙しいんだね」



わざと憐れむような表情を作り、「かわいそう」と言う、エイダンのアメジスト色の瞳には何の感情もない。
だからエイダンが何を考えているのか全くわからないが、可哀想な私を見て、エイダンは愉快な気持ちになっているのかも…とは思った。
いや、きっとそうに違いない。



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