「先生」って呼ばせないで
「そんなことでいじけるなよ」


「廉くんが悪い」


「はいはい。めんどくさいお嬢さんだなお前は」


「意地悪」


「はいはい。もうわかったから。さっさと次の問題解いて」


「“はい”は1回じゃなかったの?」


「お前めんどくせーー」


頭を抱えて表情を崩す廉くん。


やったね、廉くんに勝った!


「どの問題解けばいい?これ?」


「…はぁ…。ったく…。マイペースだな…」


ブツブツ文句を言っているのが聞こえたけど、そんなのは無視。


「あー、それ違う。解き方も計算も間違ってる」


廉くんの長い指がノートに伸びてくる。


「あ。ホントだ。さっきと同じミスだ」


「いーね。気づけた」


さり気なく褒められて頬が緩む。


廉くんは“さっきも教えただろ”とか、“なんでできないんだ”みたいなマイナスな言葉を一度も言わずに教えてくれる。


そういう先生が少なからずいるなかで、廉くんの言葉選びには優しさと温かさが表れているんだと思う。


口は悪いし冷たいときもあるけど、やっぱり芯の部分は優しい。


「そう。解けたじゃん」 


ふっと笑った横顔は、見惚れるくらいに美しかった。
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