「先生」って呼ばせないで
「そっか」


廉くんは…お兄ちゃんからどこまで聞いてるんだろう。


わりとなんでも廉くんに筒抜けなんだったら、中学のことも知られてるのかな。


「ねぇ廉くん…」


「ん?」


門まであと数メートル。


聞くか迷っている間にも門との距離は縮んでいる。


「…中学の頃の話って……」


「うん」


優しい相槌。


もう門は目と鼻の先だ。


「…なんでもない」


門に着いてしまった。


「なんだそれ。なんか言いたいことあるなら、いつでも話しに来いよ?ちゃんと聞くから」


廉くんは教師の顔に戻ってしまった。


「ありがとう、廉くん」


「……。気をつけて帰れよ」


“伊吹先生な”と言いたげな顔だったけど、廉くんは何も言わなかった。


中学の頃の話、聞けなかったな。


知られたくないことだけど、デリカシーのないお兄ちゃんなら廉くんに話してたっておかしくはない。


でも、聞けない。


知ってるよって言われたら反応に困るし、知らないって言われても変な空気になる。


「バイバイ、廉くん。また明日ね」


「……うん。また明日」


諦めたようなため息を背に、私は廉くんと別れた。


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