ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~

 軽く柵を飛び越えて川に近づいたディオンは、サッと木樽を水中に潜らせた。ほんのわずかばかり水を掬い、慎重に触れないようにしながら戻ってくる。

「ディー、だいじょぶ? 樽、溶けちゃってない?」

「大丈夫そうですよ、姫さま」

「よかった。ディーの剣みたいにならなくて」

「……? ルゥ、なんの話?」

 リュカが首を傾げる。たしかにこれは、あの〝毒地獄〟をひと月以上も生き抜いたルイーズとディオンにしかわからない会話だった。

 ベアトリスも不思議そうな表情をしているのを見て、ルイーズはすでに遠い昔のように感じられるザーベス荒野での日々を思い出しながら答える。

「リュカ、ザーベスって知ってる?」

「ザーベス……うん。たしか、猛毒を持った花だよね。魔界だと、魔王ブレイズさまの領地に咲いてるって聞いたことがあるよ」

「そうなの? 人間界にもね、そのザーベスがいーっぱい咲いてる場所があるの。ルゥたち、魔界に来る前にそこで過ごしてたんだけど」

「えええっ、なんでそんな危険な場所に!?」

「ちょっと用事があって。でね、ディーの剣がね、ザーベスの茎を斬ったとたんにドロドロ~って溶けちゃったんだ。びっくりした」

 それほどの猛毒を相手にしていたのだから、色も普通、空気も正常、加えて溶けない相手などどうってことないとすら思える。

「……ディオン、それはわたしと出会う前の話だろう? 姫さまがおそばにいる状態であの毒花を斬ろうとすること自体、わたしには到底信じられないんだが」
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