ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~
まるで、白い絵の具のなかに、ルイーズだけポツンと放置されたかのように。
色のない世界でたったひとり佇みながら、ルイーズはあたりを見回す。
(……ここ、どこ?)
前にも後ろにも、視界のどこにもディオンやベアトリスの姿はない。
あんなに近くにいたはずなのに、いったいどこへ行ってしまったのだろう。
いや、あるいは、飛ばされたのはルイーズの方なのか。
感じたことのない孤独感。足元の地面が突如として崩れ去ってしまったかのような心細さ。そしてなにより、得体の知れない場所にひとりきりという状況は、ルイーズに強烈な恐怖をもたらした。
(やだ、こわい……っ)
思わず、聖女の睡宝をぎゅっと両手で握りしめた、その刹那。
『大丈夫よ、ルゥ』
ふいに背後から、だれかに優しく抱きしめられる。
同時にふわりと鼻腔をくすぐったのは、懐かしい記憶を思い起こさせる香り。
──ルイーズが大好きだった〝母〟の香りだった。
(……ママ?)
心を引き千切られるかのような切なさが胸の内を貫いた。
ゆっくりと顔をあげて振り返り、泣きそうになりながらその声の方へ縋りつく。
「ママ……っ」
実体はない。全体的に半透明で、後ろの白い景色が透けている。
それでも、ルイーズとそっくりな長い白銀の髪をなびかせて宙に浮かんでいたのは、まちがいなく大好きな〝母〟──ミラベルだった。
『よくここまで頑張ったわね、ルゥ。まさか本当に辿り着くなんて、ママびっくりしちゃった。さすがわたしの自慢の娘』