ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~
ポツンと寂しく鎮座する石碑を前に、ルイーズは茫然と立ち尽くした。
石碑の前でぴょこんと芽を出しているベアトリスの赤髪も気になるが、それ以上に自身の父親があまりにもお粗末な封印のされ方をしていることへの衝撃が強い。
「……ふむ、たしかに大魔王グウェナエルと刻印はされておりますが。いやしかし、大魔王ともあろう方が、このようなちゃっちい──いえ、小さな場所に」
ディオンもまた、信じられないらしい。
しかしながら、本当にこれが大魔王グウェナエルの封印場だとするならば、まちがいなくここはルイーズの目的地だ。長い長い冒険のゴール地点とも言える。
ディオンたちが顔を見合わせるなか、ルイーズは意を決して石碑に歩み寄った。
ベアトリスの髪は踏まないよう気をつけながら、目の前にしゃがみこむ。
(ほんとに、ここにいるの? パパ……)
半信半疑でそっと指を伸ばし、石碑の刻印に触れた。そのときだった。
「ッ、……!?」
ふいに、首から下げていた〝聖女の睡宝〟がまばゆい光を発した。突然のことに驚いたルイーズは、思わず声にならない悲鳴をあげる。
「姫さまっ!」
「ルイーズさま!?」
ふたりの声は聞こえる。
だが、すぐ後ろにいたはずなのに、なぜかとても遠かった。そのうえ、このような危険時にはすぐに駆けつけて抱き上げてくれるはずのディオンの気配がない。
(なにが、起きたの……?)
おそるおそる瞼を開けたルイーズは、その瞬間、硬直した。
周囲の空間が真っ白だったのだ。上下左右、どこもかしこも白一色。毒々しいザーベスの花も、湿地も、雷鳴が轟く暗雲も、なにもかもなくなっていた。