愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
頼んでいないのに成美と朝陽の前にビールが出され、オーナーがご馳走すると言ってくれた。

お礼を言おうとした成美は、彼女の斜め後ろを見て息をのんだ。

カウンターの奥に調理場に繋がる出入口があり、半袖Tシャツに半ズボンを穿き、エプロンを着た六十歳近い男性がピザの皿を持ってそこから出てきた。

すぐに朝陽に気づいた男性は両眉を上げた。

「また来たのかい。明日、日本に帰るんだろ? 観光しなくていいのかい? 昨日、観光客に人気の店を教えてあげたのに」

日本語で話し、呆れたように笑っている。

成美は両手で口元を覆って、驚きに丸くなった目には涙がにじんだ。

(お父さん!)

約十年ぶりに見た父は記憶しているよりずっと年を取っていて、短い黒髪の全体に白髪が混ざっていた。

痩せているが日に焼けて元気そうで、無事でよかったと成美は心からホッとした。

安否さえわからない中、もし命を絶っていたらと嫌な想像をした夜もある。

そのたびに馬鹿なことを考えず父が元気だと信じようと自分に言い聞かせ、再会できる日を夢見てきた。

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