愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
今はVネックの白いTシャツにグレーのストレートパンツというラフな格好をしているが、ただ者ではないと思ったのだろう。
「君は一体……」
朝陽が旅行バッグの中から名刺入れを持ってきて、父に一枚を差し出す。
「ご挨拶が遅れました。私は藤江朝陽と申します。先月、成美さんと婚姻届けを提出しまして、一昨日このホテルで挙式しました。ですからあなたをお父さんと呼ばせていただきます」
名刺に書かれた肩書よりも、娘が結婚していることに驚いた顔をしている。
「成美が結婚……そうか、もう子供じゃないんだな」
父は部屋のドア前で立ち止まっている娘に、切なげな視線を向けた。
改めて見る娘はすっかり大人の女性で、離れていた長い年月をしみじみと感じたのだろう。
「結婚おめでとう」
泣きそうに目尻に皺を寄せた父が朝陽に頭を下げる。
「藤江さん、娘をどうぞよろしくお願いします。こんな挨拶をする資格はないかもしれませんが……」
「お父さん、頭を上げてください。座って話しましょう」
この部屋にはキッチンもあり、お洒落な木目の大型冷蔵庫には飲み物が豊富に入っている。