愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
今、働いているレストランバーは勤めて五年ほどで、安い日給でも文句を言わずに真面目に働く父はオーナーに気に入られているそうだ。

(生きていてくれてよかった。でも食べるのもやっとの暮らしだったのね。だからこんなに痩せてしまったんだ)

苦労を察して胸が痛んだ。

「気づいたら十年も経っていた。信じられないかもしれないが、成美と母さんを忘れた日はない。ずっと謝りたいと思っていたんだ。だが――」

自分を頼りにして慕ってくれていた妻子を裏切ったようなもので、冷たい目で見られると思ったら足が震え、会う決心がつかなかったそうだ。

「父さんは弱い人間だ。家族に会わせる顔がない……」

硬く目を閉じて、父がつらそうに黙り込む。

成美は目を潤ませて父の腕を強く掴む。

(私とお母さんに軽蔑されたと思って、それがつらくて帰れなかったんだ。帰りたくないわけじゃなくてよかった)

「お父さん」と成美は優しく呼びかける。

「お母さんは離婚届を出していないんだよ。借金を返済し終えたら、きっとお父さんが帰ってきてくれると信じて待っているの」

父は目頭を押さえて嗚咽を漏らす。

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