愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
意気込む梢は早速、周囲を見回して困っていそうな人を探している。

(無欲……?)

心の中で指摘しつつも、梢が元気そうで安堵した。



電車を二本乗り継いで自宅マンションに着いたのは、十九時五分前だった。

今日の昼頃、夕食は自宅で食べるという内容のメッセージが朝陽から届いた。

接待や仕事関係者との会食で食事をすませて帰る日も多く、どちらの場合でも彼は必ず予定を連絡してくれる。

一緒に夕食を取るのは二日ぶりなので張りきる成美だが、梢と話し込んでいたため帰宅が遅くなってしまった。

(スーパーマーケットに寄る時間がなかった。冷蔵庫にあるもので献立を考えよう)

高級ホテルのようなエントランスを早足に進むと、コンシェルジュの女性が声をかけてくれる。

「おかえりなさいませ」

ハッとした成美はカウンター前で立ち止まると、礼儀正しくお辞儀した。

「ただいま帰りました。いつもお世話になっております。先日はクリーニングの預かりをありがとうございました」

成美にとっては普通の対応をしているつもりなのだが、住み始めの頃はコンシェルジュの女性を驚かせてしまった。

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