愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
横柄な態度の住人はいても、成美ほど丁寧に挨拶を返してくれる人はいないらしい。

成美の真面目な性格を理解してくれた今は、戸惑わずに微笑んでくれる。

「こちらこそ、藤江様にはいつも優しいお声をかけていただきまして感謝しています」

頭を下げ合ってから、成美はエレベーターで最上階へ。

この階には四世帯が入居しており、成美の自宅は南東側だ。

濃い色合いの木目が美しいドアを開けると、白大理石の玄関フロアに揃えて置かれた黒い高級革靴が目に飛び込んだ。

(朝陽さん、もう帰っているの?)

一緒に食事ができる日はなるべく早く帰ってきてくれるが、それでも十九時前に着いているとは思わなかった。

慌ててリビングに駆け込めば、中華のいい香りが漂っていた。

キッチンを見ると、ワイシャツの袖を肘まで折り返した夫がフライパンを振っている。

「成美、おかえり。お疲れ様」

「ただいま帰りました。朝陽さんもお疲れ様です」

返事をしてから朝陽の横に並び、深々と頭を下げた。

「帰宅が遅くなってすみません。手洗いうがいをしたら私がやりますので、座って待っていてください」

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