愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
帰宅したらまずは手洗いうがいというのが子供の頃からのルールで、焦っていても洗面所ですませてから走ってキッチンに戻った。

「朝陽さん、代わります」

しかし夫はフライパンを振る手を止めない。

作っているのはチンジャオロースで、立てかけたタブレットにレシピが表示されていた。

ひとり暮らしの経験が五年ほどあっても外食や弁当が多く、自炊はほとんどしていなかったらしい。

レシピを見ながら頑張ってくれていたのが窺えた。

「こんな感じ? もう少し炒めた方がいい?」

「ちょうどいいと思います。あの……」

火を止めた朝陽がフライパンから大皿に料理を移したが、ふたり分にしては量が多い。

「そうか。レシピは四人分か。見落としていた」

苦笑する夫がコンロに置かれた鍋の蓋を開けた。

「卵スープも作ったんだ。この二品を作るのが今の俺には精一杯。成美はいつも手際よく四、五品並べてくれて、改めてありがとう」

成美の作る食事は庶民的なメニューばかりだ。

高級料理を食べ慣れている朝陽の舌に合わないのではないかと心配していたが、いつも喜んで食べてくれる。

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